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6日目
10時ちょっと過ぎに、昨日バス停まで迎えに来てくれたボーイがやってきた。
彼がトレッキングのガイドである。
「行キマショウ」彼も日本語が達者であった。

しかも、気がついたのは日本語に慣れている人よりも、日本語を勉強している身の人の方が話が断然分かりやすいのである。
なぜなら、一言一言思い出すように話すので、聴覚障がい者の人には唇がはっきり読めるからである。

彼は"suku"だった。
本名とは離れているニックネームである。
「ホワイ suku?」と聞くと、「読ミヤスイカラ」と照れ笑いしていた。


そして、「ハウ オールド アー ユー?」と聞くと、「24 ヤー オールド。」と答えた。
ハオは思わず「ワウ!セイム!」と叫んだ。
「貴方モ?」とうれしそうな顔をするsukuで、お互い握手を交わした。
とても感じのよさそうな青年である。

最初はひどく混んでいるバスに乗車した。
体を強く抑えないと、バスのドアから落ちてしまうぐらいバスの中は満員だった。
次第に乗員は降りていったので、座れるようになった。

20分後、sukuは「降リルヨ」と合図をしてくれたので、さっさとバスを降車した。
そこからは徒歩である。

あちこち、ポリス(軍隊)が銃をもって警備していた。

次第に町から離れて、山道らしきところに出た。


sukuは風邪をひいていたらしく、途中にある薬局で薬を買っていた。

ハオはしばらく待っていた。
すると近くにネパール人の子供たちがたくさん遊んでいたのだ。

ハオはネパール人の子供たちにカメラを向けた。
すると、遠くに5〜6歳の少女が歩いてきた。
とてもかわいい少女だ。
カメラを向けると、少女はこっちに気がついて立ち止まってくれた。
「カメラOK?」と親指をたてて合図をすると、黙ったまま頷く少女。
そして静かにシャッターを押した。


すると、子供達は無邪気で笑いながら寄ってくる。
1枚撮って、それを撮った写真の映像を子供たちに見せると子供たちは大興奮して、『俺を撮ってくれ!』と集まってきた。

本当に可愛かった。
しかし、ギリがないので、8枚ぐらい撮ってsukuとさっさとその場を去った。





長い徒歩だった。

その間、sukuと色々話をした。
sukuは日本学校で日本語を学び、働いていると言う。

なによりうれしかったのは、相手は日本語が分かるので日本語同士で話せるからである。
しかも話も分かりやすいので、聞き返すこともなく楽しく会話をすることができた。
「どうして日本語を覚えたいと思ったの?」と質問をすると、 「ネパール ハ 日本人 ガ トテモ 多イ。 ソシテ 私ハ 日本人ト 友達ニ ナリタイカラ 覚エタ」 と言っていた。
「もう俺らは友人だよ。」と言うと、うれしそうな顔をするsuku。

それにしても長すぎる。
いつになったら頂上なんだろうか?
もう1時間は過ぎる。
sukuは「疲レタ?」と言ってきた。
ということはもうすぐなんだと思ったハオで、「まだまだ大丈夫だよ。」と余裕そうに見せるハオ。

途中で、大きな川があったり、滝があったり自然豊富な所だった。
川には泥とか混ざっていて灰色で汚かった。


滝の水を見て「その水って飲めるのかねぇ?」と言うと「飲メルヨ。トテモ キレイナ 水ダカラ 大丈夫」と言うsuku。
試しに飲んでみると、とても冷たくおいしかった。


合計2時間。
集落で、休憩を取ることにした。
冷たいコーラを頼んで、ゆったりしていた。
近くにトウモロコシをむいている民族がいた。
しばらくそれを眺めていて、そしてその場面をカメラで撮った。


30分後、「行コウカ」と出発した。
それにしても本当に長いなあ…と思ったハオだった。

合計3時間。
足が痛くなってきた。
いいかげんにしてくれよ。
sukuに「まだ?」と連続に尋ねるようになった。
sukuは笑った顔で「モウ少シ」と言う。

合計4時間。
地平線が見える所に出た。
本当にただ広く山々に囲まれている水田の真ん中を歩いているのだ。
この景色はとても美しかった。
しかし、果てしない道だった。
歩いても歩いても同じような景色が続いているような気がした。
そして、ハオの足は限界が近づき、何度も「待って」と座って休憩を自分から取るようになった。


合計5時間。 途中で、川を渡らないといけないのがあった。
ハオはサンダルだったので、難なく渡れたが、ズボンの半分ぐらいは濡れてしまった。
おまけに、野良犬が近づいてきたのが一番怖かった。
狂犬病というのがはやっているからだ。
sukuは「シッシッ」と追い払ったが、再び近づいてくる野良犬。
しばらくして去ったが、不安が心の中に残っていて精神的に疲れてしまった。

「まだ?」
「モウ少シ」
「あのなぁ…2時間前もう少しと言ったじゃん・・・どこがもう少しなんじゃー」
「モウ少シモウ少シ」と笑うsuku。
「………」

合計6時間。
もうどうでもえーよ…
足はブルブル震えてきた。
しかし、地獄は終わらなかった。
sukuは「ココカラ 山登リダヨ」
まじでぇ〜!!!
ここから本当の地獄だった。
もう言葉にできないぐらい死ぬかと思ったぐらいである。
まず、雨が降ったせいで、石の階段がすごい滑る。

一歩間違えれば奈落の底に落ちるのである。
これは冗談でもなく、本当の話。
おまけに朝からなにも食べていない。
(サンドイッチは食ったが、とても足りない)
そして、ハオの靴は山登り専用靴ではなく、サンダルであること。
この3連地獄がハオに襲い掛かったのである。
とどめとしては合計+2時間。
正直言って意識もうろうしたぐらいである。
高山病ではないのか?と思ったぐらいである。
半分意識がないまま、ひたすらsukuの後ろ姿を追いかけて登るしかなかった。



途中で、ミネラルウォーターが底をついたので、水を買わないといけなかった。
山道にある家にsukuが[『ミネラルウォーターないか?』と声をかけた。
中から店員が出てきて、『あるぜ。50Rsだ。』と言う。
ハオはすぐ払ったが、sukuの顔が変わったので、あとで聞いてみると 「日本人ダカラ 高ク 売ッテイル」と正直教えてくれた。
と言っても、すごくのどが渇いていたから怒る気持ちはなかった。
すると、sukuからチョコレートお菓子をプレゼントしてくれた。
お腹がすいていたハオにとってはすごく助かった。


ここまで半分ぐらいだった。
合計8時間。
夕方になってきたときに、頂上に到着した。
よくここまで登れたな…と充実感を覚えるハオでした。
sukuは過酷な山登りでも慣れていた。

そして、sukuに 「日本は便利な物が一杯。 だから、日本人は体力が衰えるんだよね。このトレッキングをして、大事なことはなにかを教わったよ。」 と言うと、にっこり微笑んだsuku。

頂上に着いても15分位歩かないといけなかった。
やっとの思いにゲストハウスに到着した。


ゲストハウスの中は誰もいなかった。
すると、とうもろこし畑からおばさんが出てきた。
sukuとは久しぶり会うらしく、お互い笑顔で話し合っていた。

ベッドに着くなり、ハオはぐったり倒れこんでしまった。
明日のことも考えるとすごい辛い…
こんな地獄の道を明日も再び味わうのだ…

すると、ビールが届いたので、sukuと廊下に椅子とテーブルをを持って来て乾杯した。
とにかく喉が渇いていたから一気飲みしてしまった。
おつまみのなにらかの乾燥した肉が届き、試食してみるとめちゃくちゃおいしかった。
「何の肉?」と聞くと、「牛」と言うsuku。
「牛って食べてはいけないんじゃなかった?」と聞くと、「違ウ違ウ。水牛ダヨ」と教えてくれた。
水牛は初めて食べるハオでした。
しかも、日本にも欲しいぐらいビールとめちゃ相性がいいのだ。

お互いほろ酔いになった頃、sukuは口をこぼす。
「私ハ 日本ノ 彼女ガ イルヨ」
「へえ!どんな人なんだい?」
「大学生。20歳ダヨ。貴方ハ?」
「彼女はいないよ。」
とお互い本音を言い合うようになった。

するとsukuは 「私ハ バイク ガ 欲シイ」 と突然言ったのだ。
どうしてだろうと思うと、 「バイク ガ アレバ 仕事 ガ 増エル」
ああ、そういうことか。
「私ハ オ金 ヲ 貯メテ、日本ニ 行キタイ。ソシテ、日本 デ 働キタイ」
とsukuの本音が出てきたのだ。
「彼女 ニ オ金ヲ 貸シテクダサイ トハ 言エナイ」 と言っていたので、
「男のプライドみたいなもんだね」と言うと 「ソウソウ」と答える。
続いて、「大変申シ訳ナイガ、私ニ オ金 ヲ 貸シテクダサイ」と頼んできたのだ。
「いくら欲しいんだい?」と尋ねると「10000円」と答えた。
「バイク ハ 20000Rs カカル。私ハ 半分 オ金ハ アル。 10000円 貴方カラ 借リレバ、バイク ガ 買エル」
「ソシテ、仕事 ガ 増エテ、3ヵ月後、貴方 ニ 返セル」
ネパールの労働では、1万円分稼ぐには頑張っても 3ヶ月もかかるということが分かったハオでした。
「俺にとって1万円は痛いんだよね…日本人でも日本の中では貧乏な方だよ。」 と悩んだ。
「でも、俺はsukuを信じているよ。返すのは時間がかかってもいい。 その代わり日本に来るために貯めておくんだよ。」と言った。
sukuは「アリガトウゴジャイマス」とうれしそうな顔をしていた。
「俺はsukuとsukuの彼女を応援したいからな」と言うと、握手を求めてきたsuku。

そして、sukuは日本でネパール料理や又はネパール語を教える先生になりたいと言う。
「応援しているよ。もしsukuが日本に来るんだったら、賃貸アパートとか仕事探しに協力するよ」と色々励ました。
普通の人だったら「知らない人に貸すなんでおかしいよ」と言う人もいるかもしれないが、俺はsukuの目を見て、信じてやれそうと判断したからである。
自分の責任でsukuを応援したい気持ちになった。

ビールも3杯目のときに、酔いもピークになって「すまん。もう寝るよ」と俺はそのままベッドに戻って寝てしまった。

次に目を覚ましたのが、夜中の1時だった。
その時は、かなりひどかった。
めちゃ頭痛がするし、眠れないし、息苦しいし、おかしかった。
あとになって分かったことだが、高山病に関係することであった。

サイトから抜粋
スイスやネパールでは3000メートル以上の高所にあるホテルに泊まることもあります。
ホテルでは、酸素が薄くなっていて眠れないからと、アルコールや睡眠薬を使う場合がありますが、アルコールや睡眠薬は呼吸を抑える働きがあり、これは脳の低酸素状態を招き、数日後に脳梗塞になる恐れがあります。
高山でのアルコールと睡眠薬の併用絶対に避けましょう。
また、アルコールには利尿作用があり、飲み過ぎると、脱水症状を起こして山酔いを悪化させることもあります。
ワインを一杯飲む程度にしましょう!


これじゃあ体調が悪くなるわけだった。
しかし、なんとか頑張って眠ることができた。
明日は無事に起きられるだろうか。

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